どこかで焼かれたポッドの中の私は、そして本来ならばスキルクローンに転送されて不死鳥のごとく復活するはずであるのに、どういうわけなのか長い眠りから醒めない。
オールドアースに漂う夢は阿鼻叫喚の地獄絵巻、とまではいかないものの、引っ越ししたり転職したり配偶者もいなければ実の両親もいないのに親戚の介護をする羽目になったりとてんやわんやが目白押しで、そうこうするあいだに2年ほどの時間が経とうとしている気がする。
嗚呼。
如月真雪という私(あるいはつららという私)の意識はなかなか戻れないのではある。
ああ。
あの自由な暮らし。気ままに漂って、思いのまま奔放に自分を演じる日々。
特別な挑戦などなくても、珍しい出来事などなくても。
ただただ宇宙を行ったり来たりして、エージェントをからかったり、海賊に中指立てたり、PKに追い回されたりして悲鳴を上げたり、不思議な場所を探したり、行ったことのない星系に思いを馳せたり、地味に採掘したり、新製品を開発したり、船や弾薬を製造する日々。
BPOを持ってあちこち渡り歩く楽しさ。
弾薬やRigや船を作って、それを使って貰うことのうれしさ。
マーケットで地味に儲けたり、詐欺にあやうく引っかかりそうになったり。
そうなのだ。
笑ったり悲鳴を上げたりする、単純な日々を私は愛しているのだ。
ガレンテの広大な緑の星雲。
カルダリの冷徹な蒼の放射光。
ミンマタの不穏な橙の偏光。
アマーの不可解な赤い反射光。
かわいらしい船。
荘厳な船。
ヘンテコな船。
優美な船。
作り方のわからない発明品。
扱いに困るクリスマスや新年のプレゼント。
そしてまるっと心細いPodの中で、死の恐怖に怯え、あるいは勝利に酔いしれ、共鳴通信で笑い、罵り、悲しみ、悩む我々パイロット。
おもしろおかしい仲間たち。
まだ知らない仲間たち。
まるで覚めない悪夢のように、私は彼の地を思い出す。
そこに眠っている、私の身体を思い出す。
羊水の中に眠る私たちが、どうか、うなされたりしないように。
誰かがクローンポッドを廃棄したりしないように。
私は私に還りたい。
もしもポッドが卵なら。
私は私に孵りたい。
それはかならず叶うだろう。
だって。私は私なのだから。