2021年10月15日金曜日

絶対ここを出ないからね!

 我々カプセラは不死身だ。
 違うだろうか。

>>>

 いや、厳密にいえば我々カプセラは死ぬ。
 しかし死んでも多くの場合は蘇る。
 のんびりぼんやり羊水の中に眠ってばかりいる私だって、これまで何度か死んだ経験はあるのだ。

 そして同時に思い出す。
 この宇宙は、それはそれは恐ろしい場所なのだと。

 だからオールドアースの夢から醒めて、クローンポッドから外に出ても、宇宙が怖くて船に乗れないのだ。
 船に乗っても、ステーションから Undock することができないのだ。

 

 それにしても記憶が整合しない。

 私は確か、WHの中にいたような気がするのだ。
 でも目覚めた場所はステーション。
 どうやら Hi-Sec の、しかもスクールのステーションにいる。カルダリだ。出身校だっただろうか。思い出せない。

 船はT2探査船だ。確かクローク機能を搭載している。
 混乱しつつ真雪を起こす。
 そう、課金だ。世の中、金だぞ諸君!
 たしかそういうキャラだったんじゃなかったっけ私。

 真雪もなぜかステーションにいる。スクールだ。
 おそらくふたりとも出身校にいる。
 ということは、私たちは何らかの理由でWHから逃げたか、WH内部で死んだことにされたのだろう。
 じり貧ながらも、WHはスリリングで楽しかったような気がする。いや血生臭くてひたすら恐ろしかった記憶の方が強いか。

 いろいろなものが、あちこちの星系の、あちこちのステーションに転がっている ── 確信。

 いろいろな船に乗って、いろいろな場所を旅した記憶がある ── 好奇心。

 いろいろなことを学んで、私たちはWHで生活していた ── 核心。

 でも、最後の方だけ、ひどく記憶が曖昧だ。
 何があったのか、まったく思い出せない。

>>>

 ただ驚いたのは、未だに FlatSleeper 社があって、真雪がCEOのままだということ。
 もちろんオールドアースの白昼夢を見ているときだって、私の神経伝達ケーブルにはEVE宇宙の情報がときどき流れてはいた。

 でも、誰かが活動して、誰かが守ってくれていたその Corp に再び戻り、私が活動して私が守ることが出来るのだとしたら、その意味はすこし変わってくる。
 Podの頼りない姿さえ凜々しく感じるのに、CovertOps を「Proteus」と名付けているその事実が、私の当時の恐怖心を物語っている。

 

/-----

※ CovertOps
 クローキングユニットを搭載して任意に使用することで、一切のレーダ/センサから船体を隠蔽することのできるT2フリゲート。
 探索性能にも優れ、偵察や危険区域の渡航に使われることも多い。

※ Proteus
 言わずと知れた Gallente の誇るT3クルーザ。
 ブラスタ使いなら一度は乗ってみたい憧れ。
(しかしWHで一度くらい壊してしまった気がするんだよねぇ……)

-----/


  平たい眠り ── つまりは死をモチーフに名付けられたその所属タグを、懐かしむ。

 Corpを維持するのって大変なのに。
 あちこちにオフィスがあったり(使えない)資材が転がっていて、大変なのに。

 誰か(だいたい見当は付く)が私たちの帰る場所を守ってくれていたのだ。

 私は伝えたい。
「私たちは帰ってきたぞ〜!」と。


 ただ。
 帰ってきたのはいいのだけれど。

 宇宙がコワくてステーションを出られないのです……。

2021年1月22日金曜日

 我々カプセラは不死身だ。
 違うだろうか。

>>>

 オールドアースの白昼夢(IRL)では、12年ほども使い続けたコンピュータがいよいよ動作が困難になり ── OSのアップデートなどずいぶん前からできなくなっている ── 新しいマシンを購入した。
 しかし購入したマシンが新しいことはユーザにとって必ずしも恩恵をもたらすとは限らない。
 周辺機器のドライバやアプリケーションのほとんどは使えなくなり、喜び勇んでインストールしたEVEクライアントは動作しない。

 サイトまで日本語化していてたいそう驚かせたオメガクローン(ゲームタイム、と我々は呼んでいたはずだ)は、私の2*13k円(私と真雪の分)を呑み込んで沈黙してしまった。

 仕方がないので渋々とサポートにチケットを切る。
 最終的に26k円がポケットに戻り、そして私は上四半期にリリースされるというMacのM1チップ対応版クライアントを待つだけの人になってしまった。

>>>

 カプセルに浮かんで伝達ケーブルを通しての艦船制御なんて、すっかり忘れてしまったから、いっそのことAuraにチュートリアルから教えてもらいたいところではある。

 なにより私は最後、WHにいたはずなのだ(居場所を探さないでください)。
 プロービングの技術も遠い記憶の彼方なのに、WHで無事に出口を探し出し、そこから(大抵はLowだのNullだのを何度もくぐり抜け)存続しているかも怪しい Office へ無事に戻るなんていう芸当が私に可能だろうか(どうか居場所を探さないでください)。

 インプラントが刺さっている個体だったかどうかも覚えていないが、刺さっていないならそのまま途中で殺されてしまうのもひとつの方法だろう。

 肉体の死は、カプセラにとって単なる手足の喪失に過ぎない。
 もちろん、その肉体に付随したもの(胃袋の中の夕食であるとかはもちろん、一番の焦点であろうインプラント)は失われるが、それらの喪失は、我々カプセラの魂の喪失を ── 存在の消滅を ── 意味しない。

 洋服やメイクさえ、死ぬ前とほとんど変わらぬ状態で復活できるのである。

>>>

 IRLでは5年か6年ほども経ってしまったように思う。
 それでもこの白昼夢が暖かくなる頃になれば、私は戻るのだ。

 あの漆黒の。
 冷たい孤独の中へ。