2013年3月11日月曜日

ひさしぶりの Gallente。


「……それで?」
 エージェントは、冷ややかな視線をまっすぐに私に向けている。
 冷徹で皮肉たっぷりの表情は、とても友好的とは言いがたいものだ。
 彼のコンソールの前にあるホロディスプレイが投影している情報は、私たちが「合法的」な存在であることのほか、Gallenteという国家にとって  その権力宙域において  の「有用性」と履歴を証明している。
 もちろん彼から(そして彼の所属する企業から)は長いあいだ多くの仕事を請負ってきた。
 だから彼がそんなデータを本当は必要としていないことも、その表情に隠されている本音も私にはわかる。

 彼に割り当てられたオフィスのこの一室に入ってからというもの、真雪は私の斜め後ろで、置物のようにひっそりと、ひかえめに身をすくめている。

 もっとも私がこの場所を訪れたのは久しぶりのことで、かつては冗談を飛ばしあうほどまで親しくなったはずのエージェントが、今は仏頂面をしながら私たちのIDレコードに渋い視線を投げかけているというわけだ。

「もちろん、あなた方の乗っている艦船や、私設企業体の来たところに問題があるわけでも、行く末について心配しているというわけでもないんですけれどね」
 彼はあえて事務的な口調を強調するように言いつのる。
「Tulala、君は君であれほど嫌っていたはずのカルダリの艦船に乗っているというし、君の妹だと記録されているそこの……ええと、Mayuki? 彼女の船にいたっては、あろうことか Gulistas のそれだというデータが届いています」
 彼は沈鬱な面持ちで、おおげさにかぶりを振る。

 私はしかし、仏頂面の彼や私の背中にできることなら隠れたそうな真雪とは対照的に、にやにやしていたことだろう。

 Roden Shipyards。
 Gallente 屈指の宇宙船開発/生産メーカのエージェントたる彼が、今ここで苦言を呈さなければ、いったい誰が文句を言うというのだろうか。
 艦載IFF(敵味方識別信号/装置)は、その Pod を搭載した船がどこのメーカの開発で、どこの勢力の艦船だろうと気にしない。
 だから、どの国家に行っても私たちは平気な顔でステーションに対して停泊要請を出せるし、ステーションの管制が問題にするのはパイロットたる私たち自身のIDだと心得てもいる。
 そんなことは常識で、だから敵対国家の船に乗っていてもとがめられたりはしないし、海賊勢力の船に乗っているからといって警察に捕まることもないのだ。

「まぁ、確かにね」
 私は、ゆっくりと口を開く。
 私がこの企業をどれだけ好ましく思っているかは、彼自身もよく知っているはずなのだから。

 駆け出しの頃、Gallenteでの国家内地位(Fac ST)がある程度まで上がったのを機に、彼らに必死で取り入ったのは私のほうだ。
 当時の私は Amarr のきらびやかな(そして鈍重な)Battle Ship に飽きて、Gallente の船に乗り替えを始めつつ、製造開発関連企業との接点を求めていた。
 相応の時間をかけて彼らにとっての私の「有用性」を証明し、R&Dエージェントとさえやりとりをするようになった私は、さらにこの企業での評価を上げ続けた。
 高位エージェントであるところの彼から多くの仕事を請け、それを確実に達成することで、この宙域での評価基盤を作った。
 そして  

「突然この地を去ったのは事実だし、しばらくあなたのところに来なかったのも事実だし、その間に Amarr での評価が存外に上がっちゃったのも事実ではあるんだけれど」
 彼はそれを聞きながら、片方の眉を器用に持ち上げた。
 私は、そのジェスチュアを無視して続ける。
「Caldari の船に乗ってるのは成り行きでたまたまのことだし、この国やあなたの企業とその成長にとってはもとより、あなた自身のキャリアにとって、まだまだ有用な存在だと思うんだけどなぁ、私は」

 そのセリフを、しばらく噛み砕いていたのだろう。
 彼はふたたび仏頂面になってから、片方の口元だけで笑みを作り、そして言った。
「それなら Tulala、もっとうちの船に乗ってほしいもんだなぁ。きみのお気に入りの Enyo、先の法整備よりずいぶん前から仕様が変わってるんだから」

 もちろん覚えている。おそらくは彼もそうだろう。
 このエージェントのもとを初めて訪れたとき、私は Ishkur に乗っていた。
 そのときだって、彼からは嫌味たらたらに迎えられたものだった。
 彼は生粋の Gallentian だし、当然この企業と海軍との繋がりは重力アンカのように、目に見えなくてもそれはそれは強固なもののはずだ。
 このあたりの宙域で Roden のロゴを刻まれた紅色の船が増えるなら「エージェントとして」の彼はさぞ満足するだろう。
 それはIFFやらポッドパイロットIDの問題などではもちろんなく、企業でキャリアを積み重ねた者にとって当然の姿勢とさえいえる。

「ええ、もちろん」
 私はにっこりと答える。
「乗りたいときに乗りたい船に乗る。乗るべきときに乗るべき船に乗る。優秀な船がそこにあるかぎり私たちがそれに乗らない理由はどこにもないし、Roden の深紅の翼がそうでないはずなどない。そうでしょう?」

「ふうん」
 彼はため息とも肯定ともつかない音を立てながら息を吐き、コンソールを操作する。
「そして行きたくなったら、どこにでも姿を消しちまうんだろう……まったく」
 ホログラフに表示された、ファイルのひとつを開きながら苦笑いをする。
 そんなに文句があるならポッドパイロットになればいいのに、と以前、言い返したことがあったっけ。

 それでも彼には愛する家族があり、誇る民族があり、所属する国家がある。
 それらに所属し、拘束され、その不自由に安住することを、彼は選んでいる。
 私は逆に自由を選んだ。
 だからこうして、血統上は反目している国家所属の造艦企業に出入りもしていられる。
 方向が違うからこそ互いに敬意を払える、こうしたありようを私は素敵だと思っているし、なんだかんだと文句を言いながらも、民族や乗っている船ではなく私個人の能力を買ってくれる彼のことをとても信頼している。

「まぁ、ちょうどよかった。実はちょっとやっかいなことが起こっていてね」
 皮肉の種も尽きたのか、彼は以前と同じように、実直な表情で告げる。
「腕ならし程度に片付けてもらうとするか……。ところでまさか」
 そこで彼はまた、両目を細めて私を見る。
「まさか入港したアレ以外に、船を持ってないとか言うんじゃないだろうね?」

「あれぇ?」
 私はフレイタをオフィスに置いてあることなど瞬時に忘れて、おおげさに言い放つ。
「私が『今乗っていない船』を持ち歩いていたことなんて、今までにあった?」

 私の影に隠れて、真雪がくすくすと笑う。
 エージェントは、あきれた顔で肩をすくめ。やがて笑い出した。




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 Gallente に渡った。
 Dodixie(※後述)から遠い、開発/生産に特化した Office 付近に停泊している。

 Office の荒廃ぶりは、思ったほどでもなかった。
 おそらく、一番寂れているのは Caldari の Office だろう。
 それは分かっているのだけれど、かの地に向かうのはまだ、もう少し先になりそうだ。

 まともに募集活動もしていない私の Corp のアクティブメンバは減り続けて、今ではソロコープの様相を呈しているし、Office に集まる資材やら弾薬やら船やらモジュールやらの数々は、ただただ積み重なって、使われるなり売られるなりする日を待っているだけだ。

 もちろん、不満があるわけではない。
 孤独が嫌いなわけでもない。
 目標や目的が失われたわけでもない。
 人数が少ないからこそ出来ることもあるわけだから。

 というわけで、今は High Sec POS 建設を狙っている。




※Guristas:ガリスタ
 カルダリを拠点とするNPC海賊。
 そのポップにして悪辣な「ウサギ髑髏」のマークはあまりにも有名だ。
 そのトップはかつてカルダリの正規軍属であったと聞く。
 Gallente 連邦の政府要人を誘拐し莫大な身代金をせしめた事件によってその名は、Caldari だけでなく Gallente にも広く知れるところとなる。
 政治的イデオロギィもないままに活動するさまはまさに「海賊」そのものである。


※Dodixie
 Gallente 連邦最大の商都。

2013年3月3日日曜日

あっちの色がいい。

 この一年ほど、ほとんどの時間をT3に乗っている。
 こういうのは堕落するなぁ、とつくづく思う。

 金に飽かせて高価なリグやモジュールを使えば、ミッションをこなすのはとても安全になる。
 Tengu など、シールドハードナをひとつ組み替えれば、それぞれの属性に対して1000 程度のDPS にも耐えられる。

 そのため Tank 役をしていた真雪の Rattle Snake は、今やもっぱらダメージ/援護射撃艦になっていて、危なくなるとMJD(Micro Jump Drive:艦首方向100km 先へ短距離ワープするモジュール。3min.のクールダウンがあるが、BSの一時退避に最適な装置)によって「常に最前線から離脱する」という方法をとっている。

 しかし、Caldari 生まれで Caldari に育ち、Caldari のスクールを卒業してから Amarr に渡り、レーザタレットとアーマリペアに専心して Minmatar の荒波に揉まれた私にとって、Active Shield は「いちばん心もとない防御法」のひとつだった。
 キャパシタが大食いのため、他の装備とあわせた操作は必然的に煩雑になる。
 適切なキャパシタ/HPの残量管理を行い、モジュールを間違いなく動作/停止させる必要がある。

 全体の布陣からの戦略設定とマーキング/ターゲットの選択/ターゲッティングと攻撃。
 近接攻撃を好む私にとって、これだけで非常に忙しい。

 敵艦のサイズ、グループの密度、距離や速度によって、戦術機動の選択(たいていは停止か Orbit か Keep Range になる)を行う。
 ブラスタであれば、戦闘中に弾薬の変更だけでなく、トラッキングコンピュータのスクリプト差し替えも行う。
 距離が十分にある場合は速度差によって艦船サイズごとにグループが分散するので、接近してくる小型艦を Null 弾で射止め、至近距離に近接した小型艦やドロンはT1(もしくはFac)弾で、中型/大型艦は Void 弾で片付ける。

 攻撃の補助としてT2ドロンを使うか、デコイとしてT1ドロンを使うかの判断も、ブラスタ艦では重要だ。
 このうえ機動系でMWDを使用しながら、キャパシタとシールド残量も確認しなきゃなんて、考えたくもない。
(もっとも Active Shield ブラスタ艦なんて Fitを組んで乗る人も少ないだろうけれど)

 そこでT3の「お手軽らくちんFit」となる(もちろんコストもそれなりに掛かっている)わけだけれど、Active Shield で、キャパシタモジュールはリグ以外いっさいなしに、MWDもブースタも常時起動しっぱなし、なんていうのが当たり前になってしまったら、それは操縦のプレイヤスキルもガタ落ちになるのが必然だ。

 そんな危惧をおぼえると、私はDDに乗ってL3ミッションに出向くのだけれど。



 このまま堕落してはいけない、たまには新しい船に乗ろうと思い、かつてスキルを上げていた Command Ship に目をつけた。
 BCベースのT2艦。防御ボーナスもさることながら、攻撃に特化した Field Command Ship と、フリートボーナスに特化した Fleet Command Ship。

 いくつか見ていたのだけれど、どうしても悪い癖が出てしまう。
 つまり、Blaster 艦に乗りたくなるのだ。

 そうなるとやっぱり、私の大好きな CreoDron 社が開発した Eos
(Drone スキルは相変わらずイマヒトツな私ですが、CreoDron 社は好きです)
 それとも Duvolle Laboratories の開発した Astarte

 いやいやいや。
 たしかに、7門ものブラスタを搭載できる Astarte は、Drone を使用しなくても900を超えるDPSを叩き出すことが可能です。
(私が Vindicator に乗った場合のDPSは、やっと 1100を超える程度なので海賊艦には乗らないほうがよさそうです(苦笑))

 しかし、BC以上のブラスタ艦は「あんまり防御が硬くない」だけではなく「あんまり速度が出ない」上に「船体が大きいので被弾しやすい」という危険がいつも隣り合わせです。
 これは怖い。

 では、見た目で勝負。ここはひとつ防御力にも目を向けつつ、かつて Wiki を見るときに重視していた「L5ミッションソロ可能」も重要点として考えよう。
 と思っていると当然目に付くのが NightHawk
(機体画像のあるJP-Wikiのページはこちら

 美しいですね。
 「のぺ~」としていて「塗装とか、面倒だもんね」「どうせシールドのエナジフィールドで可視拡散光が大幅に乱れちゃうから、船体色なんかどうでもいいもんね」「武器を撃てれば見た目とかどうでもいいもんね」「塗装すると高くつくから保護コーティングだけでいいもんね」といった、よくいえば質実剛健、悪く言えば「もんね主義」という Caldari らしい哲学を貫徹し続ける T1Ship からは想像もつかない、特殊部隊のように精悍かつ力強い Kaalakiota(※後述)Black に、Kaalakiota のロゴをそのまま身にまとったような、鮮やかな紅のライン。
 こんな素敵な船に乗れるスキルがあるならば、乗りたくないなどと言う人が果たしているでしょうか。いえ、いるはずがありません。(反語)

 ただし、惜しむらくはその武装。
 Ship Bonus を見ると分かるのだけれど、HM(Heavy Missile)ほぼ一択。そのうえ、HMの飛行速度や航続時間ボーナスはないので、飛距離はそれほどでもありません。
 その上、この NightHawk、タレットは1門しか装備できません

 こんなときの強い味方、艦船Fitシミュレータ「EFT」を使ってあれこれ調べてみると、Fleet Command Ship、Valture のほうが、防御も攻撃力も高くできるということが分かりました。
(ええ、ええ。もちろん、武装はブラスタ&HAM(Heavy Assault Missile)。近接戦仕様です!)

 もちろん、Tengu のほう速くて小さくて有利なので比較してはいけないのですが、それでもMサイズ Void弾(※後述)の Opt.Range(有効射程)が6km以上になるのはちょっとすごいです。
 ディベロッパが Ishukone(※後述)なのは片目をつむるとして、DPSも(それなりに)私好みの数値が出てきました。




 というわけで、実際にマーケットで探してみたところ……。
 こんな外観らしい。

 ……あれ?
 なんですかこれ。
 日陰者感が半端ではありませんよ?

 前半分だけステーションの陰に隠れちゃったとか、そういうことではありません。
 グラデーション塗装ですよ、グラデーション塗装!

 オールドアースの2Dギャグアニメーション「ちびまる子ちゃん」で、登場人物にショッキングな現象が起こったときの顔にかかる、翳りの表現そのままです。
(参考画像:http://www.dream-plaza.co.jp/chibimaruko/wp-content/themes/chibimaruko_1_2/images/chara_noguchi.gif

 まさに「くわしく調べてみれば……。」という気持ちになったのはいうまでもありません。


 ああ……。
 なんと不遇なのだろう。
 カルダリで唯一私が好きな Kaalakiota の艦船はダメージ重視ではないミサイル艦で、ブラスタ/ミサイルを装備できる(と素直に喜んでいた)Ishukone の船は(同じモデルの船なのに)こんなにもダサいなんて。

 誰か、塗装だけ Kaalakiota カラーに塗りなおしてくれないものかしら。






(※ Kaalakiota:
 Caldari の8大企業のひとつ。総合企業として一般工業製品から不動産までをも取り扱い、ミサイルをはじめとした軍需産業についても古くからの歴史を持っている。
 8大企業でも屈指の規模と権力を持つ)


(※Void弾:
 ブラスタ用T2弾薬。タレットの射出機構かかる負荷を軽減するためか、トラッキング性能が75%になるペナルティがある。
 しかし Antimattar弾をはるかに上回る有効射程(Opt.Range)とFac弾薬を超える大きなダメージを持つため、とくに自艦よりも大きな対象には絶大な効果を発揮する。
 Opt.Range が上昇した一方 Falloff Range は低下するため、戦術距離は必然的により近くなる。
 ブラスタの真髄ともいえるその能力は、多くのブラスタユーザの心をつかんで離さない)


(※Null弾:
 ブラスタ用T2弾薬。射出機構にかかる負荷軽減のためか、トラッキング性能が75%になるペナルティがある。
 ダメージは T1 Antimattar弾にも及ばないものの、最長射程は Ion弾薬を使った場合を軽く超え、威力はその倍以上にもなる。
 Void弾同様、適切な場面で使用すれば、圧倒的な能力を発揮する)


(※Antimattar弾、Ion弾、Fac弾:
 短射程だが、高威力を突き詰めたものが Antimattar弾。
 低威力だが、長射程に特化したものが Ion弾。
 Fac弾は、各種軍用弾薬のこと)


(※ Ishukone:
 Caldari 8大企業のひとつ。昔は名も知れない弱小企業であったが、この一世紀ほどでハイテク機器をはじめとした最先端企業として台頭し、広くその名を馳せることになった。
 そうした背景には、かの Jovian(Jove人)との強い繋がりがあるらしいのだが、詳細は不明。
 ちなみに Ishukone は宇宙に名だたる大手メディア企業、The SCOPE の筆頭株主である)