カルダリといえば私の生まれ故郷なのだけれど、その宙域はあまりに広大で、たとえばどこかのステーションから、あるいは艦橋から、時にはどこかの陸地から、星々を眺めたところで「ああ、あそこが私の故郷のある太陽だよ」とは言えない。
もちろん、網膜投影ARシステムを起動させれば、雨の夜でも、晴れた昼間でも、私たちは自分の星のありかを知ることができる。
でも。
でも、それが。
それが故郷なのだろうか。
そうやって、物理的に指標された座標が、人の故郷なのだろうか。
窓の外の漆黒を眺めながら、私は思う。
おそらく、人に説明する時はそれでいいのだ。
「私はあの星の、あの地方で生まれ育って、パイロットになりました」と。
その過程のディティルも、 そこから現在というポイントまでのディティルも、ほとんどの人にとってはなんの役にも立たない情報だ。
そんな余計なところまでマークアップしないでくれと、かの国の統治局で働き続ける情報集積人工知能なら悲鳴を上げるだろう。
そう考えると、私たちの一生は、蛇足に満ちているのかもしれない。
蛇足の集積が、おそらくは人生だろう。
何度死んでも、何度生まれ変わっても、変わらない。
明示された戸籍情報のように、私は私にだけ生まれ変わる。
私だけに生まれ変わる。
いっそのこと、無味乾燥した座標情報だけが残って欲しいと思うことがある。
いっそのこと、私の過去のことなど消えてしまえばいいとさえ思うことがある。
それでも、私は、私という存在を、自分のよりどころにしているのだから、なかなかそういうわけにもいかない。
記憶操作の手術もあるとは聞くのだけれど、なかなか思い切りが付かない。
欠落した記憶の所在を、結局、人は知りたがる。
私がそうしないとも思えない。
私は私の蛇足を嫌っているのだろう。
そして同時に、愛しているのだろう。
カルダリに来るたび、沈鬱な気持ちになる。
故郷の星系に近づくと、なんとなく、気持ちが落ち着かなくなる。
それでも、私は、きっとこの青白い星雲をまとった宙域のことを愛しいと思っているのだろう。
でもそれは、太陽のようなものかもしれない。
近くで見るには眩しすぎ、あたたかさを通り越した灼熱によって、魂までも焼かれてしまうのだ。
生命の発生と同じように、重力均衡と同じように、物事には適切な距離があるのだと、私は思う。
大好きな街だった。
だから。
大嫌いな街だった。
だから。
宇宙にただひとつ。愛しいと思える場所だった。
物思いに耽っている背後から、遠く真雪の悲鳴が聞こえる。
「やだもー」とかなんとか。きっと段差につまずいたか、壁に穴でも空いていたとかそんなことだろう。
彼女は、私のMinmatar 船に乗るたび、あれこれ文句をいう。
「これって中古船を改修しただけなんじゃない?」
「ソファの生地がほつれちゃったんだけど」
「シャワーの温度が安定しないのはどういうことなの?」
「あっちの配電盤から煙が出てたよ」
「シンクの排水、すごーく悪い気がするんだけど」
「どうして拡散パネルに装甲を張るんだろう。設計者の意見を聞きたいよ」
「砲塔に煤(すす)がすぐ溜まるみたいね、掃除しなよ」
「壁の穴から虫が出てきたよ」
などなど……。
これでもれっきとしたT2Shipなのだけれど。まぁ。まったく同感だとは思う。
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※ ARシステム(Augmented Reality System:拡張現実システム)
Podパイロットならおなじみ、現実世界に対して各種情報の同時参照を可能にするシステム。
神経接続プラグを通しての情報入出力の他、人工網膜に直接情報を投影するなどのシステムも有名なところだ。
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※ かの国の統治局で働き続ける情報集積人工知能
どこの国の、どんなセクションで、何を理由に、どんな情報処理をしているのかは、作者には分からない。
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カルダリでの生活もそろそろ数ヶ月になっただろうか。
普段なら、あっという間にFacSTが 5.0 を超え、各地のNPCCorpエージェントと仲良くなって、いよいよ立ち去る頃合いではある。
しかしながら、Gallente の FacST が高すぎたせいか、なかなか上がらないという状態である。
真雪はあっというまに5.0を超えたので、今まで関係のなかったCorpには、真雪を通してアクセスしている。
そんな真雪であるが、 第1回 Ms. EVE japanese という企画に参加することになった。
(したくなったらしい)
Corpのメンバ勧誘もまともにしない消極性のカタマリのようなCEOなのだけれど、こうしたイベントに勝手に積極的に参加するという気まぐれさは、まぁ、らしいといえばらしいのかもしれない。
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※作者註
真雪で記事を書くことがほとんどないため、あまり紹介されませんが、真雪は真雪で、誰も知らないキャラクタ設定が実は多くあったりします。
当初はつららのAltキャラとして作って、Caldariから家出した放浪癖のある姉を捜す旅に出たパイロットということにしていたのですが、同じ Corp に一緒にいることになったため、二人は再開したということになりました(笑)。
それ以外にも、彼女は本格的なぼんやりタイプで、つららより臆病で、あと同性愛者という設定だったりしますが、そんなことはいっさいゲームプレイに反映されていません(笑)。
最初の頃は、口調や会話の傾向も細かくコントロールしてロールプレイしようかと思ったこともあったのですが、そんなことは無理でした。